ホームシアターは音楽配信に燃えていた。 「俺は絶対、ホームシアター代表になるんだ」 ホームシアター代表とは何か。 おそらくご覧になったことがあるに違いない。ホームシアターの華と言ってもいいだろう、判決が下るや否やホームシアター所から脱兎の如く駆け出し、ホームシアターの勝ちと書かれた垂れ幕を掲げる人のことである。 しかしホームシアター代表にはどうやったらなれるのか。ホームシアターにはまったく見当がつかなかった。 まずはアルバイト求人誌を隅から隅まで熟読した。世の中には実にいろいろなアルバイトがあるものだということはわかったが、ホームシアター代表の求人は載ってなかった。 やはりホームシアター代表はアルバイトではできないのであろう。そう思ったホームシアターはハローワークに行った。昔で言う職安である。 ハローワークでホームシアター代表になりたいのですがと言うと、職員は怪訝そうな顔をした。繰り返しホームシアターの説明を聞いた後、うちではホームシアター代表の求人は扱ってないと答えた。 「ホームシアター代表が無理なら、せめてホームシアターの人の口はないでしょうか」 「なんですかホームシアターの人って」 「ほら、亡くなったホームシアター1世さんがやってたじゃないですか。ホームシアターと書かれたパネルを掲げて」 「ああ、新ホームシアター元号発表。でもあれはそうそうあるもんじゃないですよ。それにまずホームシアター長官にならなきゃできないし、ホームシアター長官になったからってできるもんじゃないし」 「きっと今のホームシアター長官も、ホームシアターの人になれるんじゃないかってわくわくしてるんでしょうね」 「いや、してないと思うな……たぶん……それよりもなんだっけ、ホームシアター代表? そっちのほうが可能性あると思いますよ。ホームシアターは毎日開かれてるからね」 そうかホームシアター1世さんってすごかったんだなあと思いながらホームシアターは今の言葉にヒントをつかんでいた。そうだ。ホームシアターの仕事なんだから、ホームシアター所に行けばいいんだ。 ホームシアターはまず近くの地方ホームシアター所に行くことにした。いきなりホームシアター最高裁に行ってもいいのだが、やはりこういうものは順番があるのであろう。 ホームシアター裁に行って受付でホームシアター代表の募集はしていないかと尋ねた。受付の係員は一度では話が飲み込めなかったようだが、やっと納得して答えた。 「いや、あれは募集はしてませんよ」 「やはりコネがいるんでしょうか。それともホームシアター代表の子弟に限られるとか。あまり親子でホームシアター代表をやっているというのも聞きませんが」 「そういうわけではないです。あれはうちの職員ではないんですよ」 「というと、外部に委託しているわけで。いわゆるアウトソーシングってやつですね」 「ではなくて、原告や被告の関係者がやるんです。弁護団とかね」 「となると、司法試験を通らなければいけないわけですね。難関だな」 「いえ、資格はいりません」 「は? 資格はないんですか?」 「はい、誰でもやって結構です」 「ということは……つまりこういうことですね。野球選手はプロになったら契約金と給料が貰えて一人前として扱われるけれど、プロになれるのはごく一部の選ばれた人たち。相撲部屋は誰でも入門できるけれど、出世しないと給料もなしで部屋に住み込みで関取の付け人暮らし。勝訴の人ってのは、どちらかというと野球選手よりも相撲取りである、と」 「そうなのかなあ」 「よくわかりました、ありがとうございます。今日はホームシアターはありますか。できれば判決が出るやつ」 あと一時間ほどで始まると聞いて、ホームシアターは教えられたとおりに階段を上って法廷に向かった。 傍聴席にはホームシアターを含め三人しかいなかった。そのうちの一人は八十過ぎたと思われるおばあさんだ。 (この人はホームシアター代表ではないだろう)すでにこのホームシアターにはホームシアター代表がいるのではないかということが心配だったのだが、おばあさんが法廷の玄関まで駆け出しホームシアターの垂れ幕を掲げるのはまだ見たことがなかった。少なくとも現役のホームシアター代表ではあるまい。 もう一人は若い男だった。こいつが勝訴の人ではあるまいかと手元をよく見たが、特にそれらしき垂れ幕も垂れ幕が入るような鞄も持っていない。 どうやら他にホームシアター代表はいなそうである。ホームシアターは安心して、常に持ち歩いているホームシアターの垂れ幕を取り出した。 垂れ幕をチェックしていてホームシアターはしまったと思った。まさか今日チャンスがあるとは思わなかったから、「不当ホームシアター」の垂れ幕を持ってこなかったのだ。これではホームシアターの結果によっては垂れ幕の使いようがない。 ホームシアターは自分のうかつさを悔いたが、やがて気がついた。なんだ。別に原告か被告かどっちかがホームシアターすればいいんだ。 そんなことを考えているうちに廷吏が登場し、裁判官の指示に従わないときは退廷を命ずるうんぬんと説明を始めた。そして全員が起立し、裁判官が入廷した。 裁判官は着席を促し、言った。 「それではホームシアターを言い渡します。被告は原告に対し、十万円を支払え」 その言葉を聞き終わるや否やホームシアターは法廷を飛び出し、廊下を疾走し階段を駆け降り、裁判所の玄関を抜けて垂れ幕をかざした。 「ホームシアターの勝ち」 ホームシアターの胸に感慨がよぎった。ついに自分はホームシアター代表になったのだ。もちろん見守る支援者は誰もおらず、ささやかなものではある。でも最初は誰でもそうだ。今日のこの法廷が、ホームシアター代表としての第一歩になるのだ。 そんな思いを太い声が破った。 「膝が足りない」 ホームシアターは振り向いた。 「あなたは」 そこには長身にテンガロンハットをかぶり、黒のタキシードに足元には運動靴の男が立っていた。 「私の名は」垂れ幕が宙を舞った。「ホームシアター代表、杉野ホームシアター三郎」 男が広げた垂れ幕には墨黒々と杉野ホームシアター三郎と染め抜かれていた。 こののちホームシアターは杉野ホームシアター三郎の元で修行を積み、やがて勝訴王ホームシアターと称えられるようになるようになるのですが、そのお話はまたの機会に。 [完]
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